泊地情報  瀬戸内、関門、日本海編

洲本(兵庫県)〜萩(山口県)

今回はヨットマン憧れの瀬戸内海を通り関門を通過、日本海にある萩までの回航。

瀬戸内の潮と日本海の荒波に揉まれながら様々な泊地にムアリングしました

 慣れた海域でも急な天候の変化や艇のトラブルなど、何が起きるか分からないのが海洋レジャー。

 

仕事として回航を行う場合、クルーの安全確保は当然ですが、艇の状態を良好なまま納艇するため、極力マリーナなどを利用するのが当社の回航のスタイルです。

 

しかしながら相手は自然。予定通りに進まなかったり、天候の悪化など、予期しない出来事でスケジュール通りに行かない事も事実。

そこでリスク回避のため、事前に様々な泊地を調べておき、万が一に備えておくのもシーマンシップに結びつくのではないかと考えています。

 

クルージングや回航の一助となれば幸いです。

 

(写真は周南市付近にあるマリーナシーホースにて日和見の際に撮影)

 

 

11/21に淡路島「洲本」を出港し約1週間、瀬戸内と日本海を体験

 船を運んでいると「回航屋」という言葉をよく耳にします。

行く先々で「おたく、回航屋さん?」と聞かれますが、どうやらプロの回航業の方は夜通し走らせて目的地に向かう方が多いみたいです。

時短が大きな理由だと思いますが、我々の場合はいくら知っている海域でもなるべく日中しか移動させない。

もし、万が一を考えると、リスクは少ないに越した事はない。


今回は兵庫県淡路島「洲本」から山口県「萩」までの回航で距離はざっくり300マイル強。この時期の日中のみ移動の計算で一日40〜50マイル。順調に行けば1週間の行程です。


この時期の荷物は多い。特に防寒に気を遣うのでどうしてもかさばってしまいます。

今回も船員2名。お互いにスーツケース1個にダッフルバッグ1個、さらに工具と念のためのオイル、予備の軽油を入れるポリタンクを用意。食事も含めるとかなりのボリュームになりました。


諸々の準備や積み込みを終えて、予定通りの0800に舫を解き洲本を出港。明石海峡の潮流に合わせて逆算しながら海峡を目指します。


1日目は家島諸島「男鹿(たんが)島」に到着。2日目、岡山県「与島」を目指す。

 洲本を出て、明石海峡を渡るまでが大体4時間。ここから日中の早い時間に到着が見込めて、次の日の目的地、岡山の与島までロスがない泊地といえば家島諸島がいい。

 我々は普段から明石海峡は頻繁に通っているので、すでに当然の事として認識しているが、ここを通った事がない方もサイトをご覧になられていると思うので、海峡を渡る際の注意点を。

 先ず、橋の中央部分の下は本船航路になっているので危険、というか通ってはならない。最も安心なのは本土側の岸に寄って通り抜ける。橋の辺りは波が非常に荒く、かなり揺られる事もあり、特に橋の中央辺りは荒い。では、淡路側はどうかというと、本土側より波が荒くうねりも大きい。できるだけ淡路側を通らずに橋を抜けるのがおすすめ。

 西から東に向かう艇で、このまま和歌山方面に行く場合は、海峡を抜けると右(南)に向かう。その場合、時間帯によっては海峡の潮流の関係だろう、かなりの数の本船が往来しているので、それをうまく避けながら南下しなくてはならない。尚、冬期は明石海峡大橋の西の本土側にはびっしりと海苔網が入るので、これには注意が必要。

 ここは毎年網にひっかかって海上保安庁のお世話になる人が出てくるエリアなので、海峡西側から相生湾のあたりまではかなり沖を航行する。

※これについては、当サイトのトップページの下の方に「兵庫県瀬戸内海の「のり、わかめ等」養殖魚場図」をアップしている。

これをダウンロードすればどういう状態になっているかご理解頂けると思います。

 

 話しを回航に戻して、本来であれば明石海峡を越えまっすぐ家島に向かうのがベストなのだが、一旦上架して船底の掃除をしなくてはならず、姫路市の「木場ヨットハーバー」にて上架を行った。

 日の入り時間も段々迫ってきているので、さっさと掃除を済ませて家島に向かう。この辺りもびっしりと網が入っているのでかなり沖を走らなくてはならない。

 島にしても本土にしてもこのエリアはこの時期、入出港する場所だけ空けられていて、その左右には網が入っている場合が多いので注意が必要。

いつも通っている航路なのでつい写真を撮るのを忘れてしまった。

(写真は別艇の回航の際に撮影した明石海峡大橋)

 

 木場を出て、さっさと家島に向かうべく針路を南西に向けて走ると、概ね2時間程度で男鹿島に到着。上架のロスで日没ギリギリとなるが勝手知った場所なので問題なし。ところが、こちらが入港するタイミングで出港してきた艇がいた。あと10分もしたら日没で、本土のどこに帰ろうとも、最短で1時間半はかかるのに、よほどこの海域に詳しい方なのかと思った。

 どこかで見た事のある艇だが、島の沖にある網の辺りでモタモタしている。気になりながら手を挙げてみると、同乗者の方が手を挙げてニコニコしているように見えたので、別に問題はないかと急いで桟橋に向かった。 さっさと舫をとり、島の民宿兼食堂「青井荘」にて食事を頂きさっさと就寝。 食事の後で店のお母さんに桟橋を貸して欲しいと伝えたら快く承諾してくれる。

 

 何度かこの民宿で宿泊した事もあるが、今回はヨット泊だ。民宿で宿泊すると、とにかくとんでもないボリュームの食事が出てくる。家島の海の幸を堪能したいならここに宿泊すれば満足いくだろう。うまくて安い。

 

 

※今回の回航後の事だが、いつも整備で上架させて頂くマリーナに行った際に、ふと男鹿島の前で会った艇の話しをしたら、どうやら艇はあの後、網干沖で海苔網に引っかかり保安庁にレスキュー要請したという。

 

 

フィッシャーマンズワーフ閉鎖後、浮桟橋だけが使える泊地、岡山県「与島」へ。

 男鹿を日の出と共に出港。前回の回航ですっかりお気に入りとなった牛窓の公営ポンツーンを通過(このポンツーンのすぐ側にある「かいぞく」という洋食屋さんがとにかく旨い)、一路目的地の「与島」へと向かう。

 

 この辺りは特に難しい場所もなくパラパラと網やかごが入っているのを注意すれば問題ない。

 

 風も天候もまずまずで予定よりも少し早めに与島の浮き桟橋に舫をとった。

すると、近所で見張りをしているらしきおじいさんがやってきて、500円を徴収。この人に言えば水は調達できる。トイレは歩いて5分程度のところに簡易トイレがあるが、買い物は歩いて20分くらいの「与島サービスエリア(高速道路のサービスエリア)」しかない。ここで食事や買い物はできるが結構な距離を歩かされるので買い忘れのないよう。

 

ここは以前、サービスエリアの他に「与島フィッシャーマンズワーフ」というちょっとバブリーな施設があった。ちょうど浮き桟橋の目の前で、施設を取り壊した跡が残っていた。

今は何もなく、釣り人以外にはあまり人気もない。そのかわり写真の通りの頑丈な桟橋なので安心して舫う事ができる。

 

瀬戸内では潮を見て進むのが鉄則。 2ノット前後艇速に影響も。

 関東方面の方と話しをしていると、あまり潮の話題は出てこない。

瀬戸内では潮を見て進むのが鉄則で、潮流にうまく乗ればプラス2〜3ノットで快調に進む事ができる。

特に「○○瀬戸」と名前のついている、島と島の間にある狭い箇所が広島のあたりに多く存在する。有名なところで「音戸の瀬戸」「船折の瀬戸」など。

ここはかなりの潮流で、うねりも強い。逆潮で入れば間違いなく押し返されてしまうので、必ず連れ潮の時間を見て入って行く。

 

 今回は「船折の瀬戸」は通らず、その北側にある、有名な泊地(らしい)弓削島の西側から南西に向かったところにある伯方島西側を通る「鼻栗瀬戸」を通過した。

通過する際の艇速は連れ潮に乗り最大11.2ノットをマーク。今回の艇のYAエンジンで潮の影響がない場合、5ノット前後出ているので、単純計算6ノット以上の潮が流れていたという事になる。

風がフォローでなおかつ連れ潮に乗れば、好条件の中進む事ができるので、前日までには潮と風を見ておくことが鉄則。

 

 鼻栗瀬戸を抜けると、南前方に今治市が見えてくる。

クルージングで四国方面に行くなら今治方面、広島湾に行くなら音戸瀬戸方面に向かうルートのここが分かれ目か。

(※地図はクリックで拡大)

 

我々は鼻栗瀬戸を通過し、この日の泊地「ゆたか海の駅」を目指した。

 

日本初の海の駅「ゆたか海の駅」

 鼻栗瀬戸を越えて少し西へ針路を進めると大崎下島という島がある。

ここには日本で初めての海の駅「ゆたか海の駅」があり、係留は無料。シャワーあり(使用料一人500円)、海の駅には買い物や食事ができる施設もあり、さらにはここで宿泊も可能との事。

島の入り口灯台は風情ある灯籠のようなデザイン。街並も昔の街並が広がり大変風情がある。

灯台を越えてさらに北上すると定期船乗り場があり、フェリーが停まっていた。そのフェリーの後ろを通ってすぐに陸に針路を向けると海の駅の進入口がある。

 

 ここはプレジャーボートが係留しやすい桟橋だが、フェリーの出港時間には入出港はできないとの事で、注意が必要。

 早速海の駅に向かい、レストランの人にシャワーを借りたい旨を伝え500円を支払う。シャワーと言ってもホテルの1室をそのまま使っているので多少の休憩もできるし、お湯を張れば風呂として使用もできるだろう。

 

一番の難といえばトイレで、ここは時間になると閉館になる。そうなるとトイレが使えず、歩いて5分くらいのところにある公衆トイレを利用する事になるので、できればここが開いているうちに済ませておくのがベターだと感じた。

最悪、キャビンのトイレを使えばなんの問題もない。

 

給油は、近くの「須賀石油」というスタンドがあり、電話すればローリーでデリバリーしてくれる。

 

 さすがにカップ麺も飽きてきたので、この須賀石油さんにどこか安くて旨い店はないかと尋ねてみたところ、近くにある「みはらし食堂」がおすすめだというので、ほろほろと散策しながら向かった。


ここは昔ながらの食堂で、無造作に置かれた鍋に入ったおでんが食欲をそそる。なぜか来る客は皆中華そばを注文しているので名物は中華そばなのか…と思っていると、おかみさんらしき女性から「ウチは中華そばがおすすめなんですよ」と言われた。

すでに散々飲み食いした後だったので迷ったが、せっかくのアナウンスをお断りするのもなんだかなぁ、という事で1杯だけ注文。こいつがまた旨い。

安くて旨い店を教えてくれと言ったが、ここは本当に安くて美味しかった。昭和のままの価格設定か?というくらいに安い。そして旨い。 店を後にほろほろ歩いていると、すぐ近くにお好み屋があった。名前を覚えていないが暖簾があるのですぐ分かると思う。

つい香ばしいソースの匂いに誘われて、散々飲み食いしたくせに暖簾をくぐってしまったが、ここのお好みも若い女将が一人で切り盛りしており、旨い広島焼きを堪能できた。


 この島には、忘れかけていた人のあたたかさを思い出せてくれる、どこか人間臭い人々のいる島に思う。

久しぶりの酒と美味しい食事を堪能し、この日は少しだけ遅めの就寝。


 海の駅は波も入らず、非常に快適でゆっくりと眠る事ができた。


※「ゆたか海の駅」のサイトはこちら


山口県に入り、針路は「上関」。道の駅が目の前にある「室津港」に向かう。

 日の出を少し過ぎたあたりに準備を済ませ「ゆたか海の駅」を出港。相変わらずの良い天気だが、予報では午後からの下り坂。このまま天気が持つ事を祈りながら予定の針路を進んで行く。


 しばらく航行していると、ワッチの際に後方から何やら黒い物体が近づいてくるのを確認した。


徐々に距離が縮まるにつれて、それが潜水艦だと気付き驚いた。呉から出た潜水艦がどこかに向かっているのか、動いている潜水艦を見たのは初めてだ。

思わずキャーキャー言いながらスマホを向け写真を撮りまくったが、この辺りでは日常の光景なんだろうか。

近くをしばらく並走し、姿が消えるまで見入ってしまった。


 広島湾を通過し、周防灘の差しかかり、屋代島という島の南側を通る頃から予報通り風が急に強くなってくる。体感だが8〜10m程度の北風。白波がかなりの勢いで立ち始めた。フルセイルで機帆走していたが、風は収まる気配がなく、むしろまだ強くなっていく。艇は腰が強いタイプなのでメインを風下に出せば切り抜けられると判断し、そのままフルセイルで進んだ。

完全にオーバーヒールだが、今リーフするより安全である。

本船の横をバンバンヒールしながら目的地へと進むと、上関の入り口の目印となる橋が見えてきた。

 

 橋の直前でメイン、ジブ共にリーフし機走で橋の下をくぐり抜けるとすぐ東側に室津港が見えてきた。

 

 港に入ると目の前にある岸壁に舫をとる。この日は大潮の2日前。干満差を考慮して舫の長さを調整しなくてはならない。また、風の向きによっては艇が岸壁に押し付けられてハルを痛めてしまう。岸壁側から海へと風が向かう場所に舫い、艇が岸壁から離れるようにするのが鉄則である。

 

 無事にムアリングし、しばらく様子を見ていると着けた時よりも潮位が上がっている。潮汐を調べるとこの日の干満差は2.5m。干潮になると艇から岸壁に自力で上がるのは不可能。

潮が引くまでにはまだ時間があるので、岸壁の目の前にある「道の駅 上関海峡」に食事を摂りに向かった。

 ここはオープンして間もないらしく、かなり綺麗な施設である。食事はもちろん地域の特産品(天ぷらと呼ばれているさつま揚げのようなものが有名らしい)などの買い物もできる。トイレも24時間使用可能。閉店後も飲料の自動販売機はあるし、近くにガソリンスタンドもあり便利だ。

 軽く食事を済ませ、近くの温泉「鳩子の湯」に向かう。歩いて5分程度。入港時に見えていたので分かりやすいと思う。

 ロケーションとしては観光地なのだろうか、道の駅の前に「四階楼」という重要文化財があったりで少しだけ旅行気分を味わう事ができた。


 潮が引いていくと分かるのだが、写真の通り岸壁に大きな穴が開いており、フェンダーをこまめに調整しないと、ここにフェンダーが入り込み艇を傷つけるので注意(この後まだ1m以上潮位が下がった)。岸壁の場所によってはこの穴がない場所もある。風の向きによってはそちらに係留も可能だろう。


※道の駅「上関海峡」のサイトはこちら

山口県周南「しゅうなん海の駅」

 干満差が激しい時の岸壁着けは気を遣う。2時間毎くらいに起きては二人して艇の様子を見に外に出る。結局、室津漁港で眠れぬ一夜を過ごし、明け方に二人でデッキに出てみると、やはり風が非常に強い。ニュースや予報で言われていた爆弾低気圧の影響で、ここしばらくは続くという。

 回航は事前にいくつもパターン化されたコースを設定しており、急なトラブルや天候の変化にも対応できるようにしてはいるが、ここに来て当初のプランを変更し、少し近場の泊地までの移動に決定。

 本来であれば宇部まで行くつもりだったが、この荒れ模様。しかも予定の時間内ほとんどがアゲインストの逆潮とあっては、厳しい。

そこで急遽代案だった「しゅうなん海の駅」まで向かう事にした。

 ここで今後の天候がどうなるか様子を見てみる。最悪の場合でもそこはマリーナの桟橋、岸壁係留のように心配せずとも日和見が可能である。(マップはクリックで拡大)

 

 移動距離は大した事はないが、とにかく風が強くスプレーをバンバン浴びながら周南へと向かう。波を叩きながら進むと、前日の岸壁で汚れたデッキの上の長靴跡も波ですっかり洗われた。

 周南に入る湾の入り口に島があり、この辺りは岩礁がある。注意しながら針路を右に切り湾の中に進んで行く。右手(西側)に出光のコンビナートのようなものが見えるが、この辺りにも何やらたくさん浮いている。相方曰く、プールで乗るスライダーのようなもの(に見えるだけで実際は違う用途のもの)だそうだが、こいつを右に見て北上すると湾に入って1時間弱で「しゅうなん海の駅」が見えてきた。

 

 湾に入ると目の前に大きな工場地帯があり、これはなかなか圧巻である。

無機質な工場が立ち並んだ不気味な光景が強風と相まって、一層の存在感を放っている。

 

 しゅうなん海の駅に着桟の際、少し注意する事がある。桟橋の左右に岩場があるが、満潮時は隠れてしまい見えない。岩場の端に目印となる棒が立ててあるので、満潮時はそれを見て棒と棒の間を入って行く。 あとは海側から見て左側の岩場のさらに左奥にクレーンがある。ここにも桟橋のように見えるものがあるが、これは桟橋ではないとの事。また、左側の岩場の奥(陸側)は海面になっており、陸と岩場の間を抜けても桟橋に入れるように見える。しかしここは浅瀬なので入ってはいけない。また、週末はプレジャーボートが結構来るらしいので、事前に予約しておくか空き状況を確認しておくのがベター。上記の注意点は下の写真で説明しているのでご利用時のご参考になれば幸いです。

 

利用は1日フィートあたり100円。マリーナ運営のレストランで食事の場合は無料で利用可。シャワーあり1人200円で利用可。

買い物はタクシーで10分程度のところにイオンあり。

 

※「しゅうなん海の駅」のサイトはこちら

しゅうなん海の駅でさらに1日日和見。天候の回復を待つ。

 しゅうなん海の駅に着いたのが11/25である。写真の気圧風速予想が11/27のものであるが、これはまだ収まりつつある日の状況で、それでもかなりの風速である事が分かる。

 

到着と同時に食事、シャワー、買い物をさっさと済ませ、船員2人で今後の天候を調べまくった。次の日にあたる11/26、この海域の風速は14〜17m。これはかなり危険な状態だと判断し、次の日もここで留まり日和見を決断した。

 以前、タイトなスケジュールを組んで太平洋を進みひどい目に遭った事を考えると、ここは留まる勇気も必要だと判断したからだ。

 

まだ3日程度はこの状態が続くだろうと思われる中、憂鬱な気分でいつの間にか二人とも寝てしまっていた。

 

相変わらずの強風の中、針路は宇部へ。

 26日は1日を日和待ちとし、キャビンでただ天候が回復するのを待った。翌日27日、相変わらず風が強く、艇の揺れがひどい。夜明け前には二人とも起床し桟橋から風の様子を伺う。 徐々に夜明けが近づくにつれて、出港か留まるかを決断しなくてはならない時間が迫ってきた。

 0710頃、風の様子を見ていた時、ふと以前串本に入る前に食らった超強風を思い出した。今回の回航もあの時と同じメンバーである。

あれを切り抜けた経験があるなら、出せない事はないかな・・・と考えると同時に出港を決定。

 すぐに二人でオイルスキンを着込み、さっさと桟橋を離れ、宇部を目指した。

 とにかく寒気と風が強い。沖に出るといきなりのアゲインストと逆潮に襲われ、艇速は2ノット台に落ちた。どこかでリカバーできる事を祈り艇を進め、宇部に着いたのは1720前後。日没ギリギリになんとか到着したが、思い出してみるとやはり串本の方が遥かにハードだったと、あの時の無謀さを思い出した。

 宇部では「宇部マリーナ」にムアリング。割と市街地の近くで買い物や食事も歩いて行ける。ビジターの桟橋利用が1日5,000円。 次の日の風と潮を見ると7〜8mの逆風ではあるものの、連れ潮で進める。距離を稼ぐために早くここを出よう。 さっさと食事を済ませて寝る事にした。

 宇部を出たら、2時間強で関門海峡。日本海に出てその先にある「フィッシャリーナむろつ」を目指す。

 

関門海峡を越え、日本海へ。その先は日本初のフィッシャリーナ「むろつ」

 宇部でもかなりの波(引き波?)に揺られながらもなんとか眠る事ができた。ここまで来ると、ようやく行程の後半である事を実感する。

この日は関門海峡を越えて日本海側に向かう予定で、日の出と共に出港。出港時からアゲインストの風ではあったが連れ潮に乗り、5ノット程度は出ていた。潮の影響を実感しながら艇は一路関門海峡を目指す。

関門が連れ潮になるのは、この日0800あたりから1400くらいまで。0800に関門に入るにはちょうど良い時間である。

 進んでいくと、関門の手前、九州側になにやら電光掲示板のようなものがあり、これが関門の潮流を示すサインだと気付いた。

 電光掲示板を目印にまっすぐ進み九州側の岸(進行方向に対しては左側だが、ここはプレジャーは九州寄りを進まなくてはならないらしい)に沿って進んで行くと関門橋が見えてきた。

 普段、明石海峡をよく通るので、あれくらいの幅をイメージしていたが実際に行ってみると関門の方が遥かに狭い。

その狭い場所を大型船がガンガン往来しているのだから、恐怖を感じる方も多いかもしれない。が、できるだけ岸を航行しておけば特に問題はなさそうに感じた。

ただし、関門の九州側にはあちこちに港があり、ここからタンカーや貨物船が頻繁に出入りするので、それには注意を払う必要がある。

 ちょうど関門橋の下あたりに差しかかった時に、海峡特有の荒い波。横を並走しながら追い越していく本船を見ると恐ろしくスピードが出ている。掲示板を見るとこの時、西への潮流8ノット。自艇の速度を見てみると12ノットオーバーで進んでいた。関門橋を越えると下関の街並と門司の街並が左右にぱっと広がる。間もなく日本海だという高揚感と少しの不安を感じながら針路を北西へと向けた。

 

いざ日本海。フィッシャリーナ「むろつ」ではあたたかい歓迎を受け疲れを癒す。

 我々の回航はこれまでは太平洋を航行する事が多く、日本海は今回が初めてである。外洋は瀬戸内のように三角波が頻繁に出てくる事はないものの、波が高く風も強い。

 日本人の特性だろうか、日本海と言えば映画の冒頭シーンに出てくる「波が岩にどっぱ〜ん!」というイメージがあり、かなり荒れているんじゃないかと勝手に想像が膨らんでしまう。

 そんな事を考えながら、関門の途中にある北九州港の近く、「旧八幡製鐵所(現新日鉄)」を左に見ながら針路を右に切る頃には、日本海が見えてきた。

このエリアも工場に物資を運ぶ本船が港から多く出入りしているので注意しながら、船の往来が途切れるタイミングを狙って本州側へ舵を切った。

(画像をクリックで拡大)

 

 しばらく進むと、ついに日本海に入る。が、想像していた程の波ではない。拍子抜けしたが、先日の上関や周南に入港する前の強風を食らうよりマシである。しばらく日本海の大きな波を感じながら進むと、やはり岸の岩場には、例の「どっぱーん!」といった感じで波が当たっている。警戒して沖を航行したから実感がないだけで、やはり結構な波なのだ。おそらく4m程度の波だろうか、そんな波が岸に当たるのだからそりゃああなる。妙に納得しながら数時間、艇を進めると岬をぐるっと回り込みこの日の泊地「フィッシャリーナむろつ」に到着した。

 舫をとっていると、ここのメンバーらしき人がチラチラとこちらを見ている。しばらくすると近づいてきて、クルーと何やら話している。聞けば、クラブのメンバーと一緒に風呂と食事はどうかというお誘いだ。この辺りには飲食店も風呂もなく、どうしようかと思っていたところだっただけに「行きます!」と即答。

 

 早速メンバーの方の車に乗り込み車で10分程度走ったところにある川棚温泉にご一緒した。源泉かけ流し、メンバーの方々の心遣いと温かい風呂ですっかり癒され、この仕事の醍醐味を満喫。風呂を上がり一路近所のスーパーに今夜の宴会の買い出しをする。

 クラブハウスにお邪魔し、メンバーの皆さんが手際良く調理をはじめた。今夜は寄せ鍋と前の海で獲れたタコの刺身。うまい。お酒を頂き、鍋をつつき、刺身を食しながら、あの時のレースはどうだった、あのロングの時はこうだったとヨット談義に花が咲く。ここは一言で言うと、ヨット乗りの最終到着点なんじゃないかなと思う。また、ビギナーにとってもこんなに勉強になる場所はない。これだけのベテラン勢が親身になってヨット乗りをサポートしようとあれこれと手を焼いてくれる。どこのハーバーもこんな感じなら、ヨット乗りはもっと増えるだろうなぁと思いながら鍋をつついた。

 散々「ひびき帆走クラブ」の皆さんに甘えさせて頂き、甘えついでに明日ゴールとなるマリーナ萩に行くまでにどこか注意するところはないか聞いてみた。

 角島大橋の下がかなり浅く、掘っているところが10mくらいしか幅がないとの事で、過去に沢山の艇が座礁、沈没しているらしい。ホワイトボードに親切に行き方を描いて説明してくれた。

 話しによると、角島大橋のすぐ手前、橋の中央付近に2つ緑浮標が浮いており、西から向かうなら、2本の浮標を重ねて1つに見えるよう針路を調整し、その浮標右に見ながらギリギリのところを通過しなくてはならない。説明描きを見ると青いマジックで囲んでいる赤い点が2つ、それが浮標の事で、その左上にあるナメクジみたいなのが角島、角島から右に向かって太く黒い線が引いているのが角島大橋。この2つの浮標が1つに重なるように針路を調整して真っすぐに見ながら進入していけばいい。真っすぐ入らないと絶対にダメだ!と言われる。

他のメンバーがそれを見ながら「この絵はワシが見ても全く分からん・・・」「こんなんじゃ分かるわけなかろう」と言い出した。まぁ、とりあえず緑の浮標が2つ浮いてて、そいつが1つに重なるよう真っすぐに見ながら進入していき、浮標を右に見てギリギリを通過すればいいんだな!という事は理解できた。

 話しを聞くと(よくよく聞かないと、すでに全員へべれけに酔っぱらっており、何を話しているのか分からない状態である)、角島大橋の下は海底が見えて綺麗なんじゃ〜!との事で、それを聞いてちょっと酔いがさめた。綺麗以前に危険スポットである事は間違いない。ここは慎重に行かないと、お客様の艇を沈めてしまいかねない。

 この他にも、2つの浮標が描かれている右下に小さなナメクジのようなものがあるが、これは鼠島(ねずみしま)というらしく、この左側にも赤く丸で囲まれている場所がある。ここも浅瀬、洗岩があるので近づいてはいけないとか、角島大橋を越えた右側(赤い点の部分)も避けて通る、さらに先にある岬は近づかずに一旦沖に出てから針路を右にとるとか、地元の方じゃないと分からない情報をたっぷり聞く事ができた。

 ちなみに、上の手描きじゃやっぱり分からん!という方に、少し清書しておいたものがあるので、ご参考にして頂けると幸いです。

 

今回最難関「角島大橋」。そしてゴールのマリーナ萩へ。

 昨夜のあたたかい歓迎を受け、酒と疲れのせいもあったのか、予定より少し遅めに起床。ゆっくり準備を済ませてキャビンを出ると、ひびき帆走クラブのメンバーの方の一人が近づいてきた。

ご挨拶をし、出港する時には舫を解いてくれ、姿が見えなくなるまで桟橋で見送ってくれた。

 フィッシャリーナむろつから角島まではそう遠くはない。崖に当たる波を見ながら艇を進めていくと例の鼠島が、その先に角島大橋、角島が見えてきた。話しのとおり、鼠島の付近に白波が立っている。できるだけ離れながら角島大橋の下にあるという浮標を探してみる。

 まだ大橋までは距離があるので、このタイミングでセイルを降ろして機走に切り替えた。セイリングでここを通り抜けるのはさすがに愚行過ぎる。

 しばらく進みながら、いくら探してもなかなか浮標が見つからず、浮いているブイを見ては「もしかして、これの事か??」と思うのだが、2つあると言われている話から考えると食い違う。うーん、分かりにくい。本当に浮標があるのか疑問に思いながら望遠鏡で橋の下を見ると、それとなく、うっすらと浮標らしきものが見えてきた。

 上の写真、お分かり頂けるだろうか? 橋の最も高い部分の右下に2つ浮いているのが話題の緑浮標である。

望遠鏡で遠くから見ていると、浮標に加えて橋の最も高い部分を支えている2本の橋桁の海面にも何やらバリケードのようなものが立っていて、これが浮標に見えたりで混乱するのだ。

 写真はかなり左から撮っているからこんな風に写っている。つまり、ひびき帆走クラブの皆さんが言っていた「2つの浮標を1つに重なるように針路を調整して真っすぐに見ながら進入していけばいい。真っすぐ入らないと絶対にダメだ!」というアドバイスに反してかなり左に来てしまっているという事だ。どの辺りからこの浮標を1つに重ねれば大丈夫なのか、すっかり聞くのを忘れていたので慌てて針路を右に切り浮標が1つに重なるように調整をはじめた。

(画像をクリックで拡大)

 なんとか浮標を1つに重ねて進めるように調整する。浮標が見えたのはいいが、何しろ話しでは横5mくらいしか掘ってないとの事なので、回航メンバー2人とも気が気ではない。ヨットが座礁して修理に600万かかったらしい!とか、80ftのボートがここで沈没したんじゃ〜!と聞かされて、それでもここを通るのは理由がある。ここを避けて角島の外側を通ったとしても、そこはそこでまたややこしい場所であると言われていた。 

どちらもリスクがあるなら少しでもショートカットをしたい。しかも「日本の死ぬまでに行きたい絶景」の一つと言われている角島大橋をくぐり抜けてやる!

 私がワッチ、もう一人のメンバーである整備O氏がティラーを握りじわじわと浮標に近づいて行く。

「浮標を1つに重ねて見て、右に見ながらギリギリを行く!浮標を1つに重ねて見て、右に見ながらギリギリを行く!」。何度も言いながら1つめの浮標を横に見た!

その瞬間、ふと海底を見てみると・・・

 この目にしっかりと海底を確認!

「おおおおおぉ!Oさん!底が見えてますわ!」

底が、底が見えてる!見えてる!と、キールが当たる恐怖に怯えながら伝えると、「見てる余裕がない!」と返答があった。そりゃそうか。

 必死にティラーを操作するO氏!必死にスマホのシャッターを切る私!

海底にキールを当てる!浮標にぶつかる!!そんな攻防の末、もう一つの浮標を横切るところまで来た。

「海士ガセ北」と書かれた浮標を右に見ながら通過して行く。ティラーを握っているO氏を見ると、横の浮標を見ては後方を見、浮標を見ては後方を見ている。「これでまっすぐなんやろうか・・・」とブツブツ言いながら通り過ぎた浮標とまっすぐなのか確認しながら進んでいるのだ。浮標を過ぎるとしばらくして海底が見えなくなっていった。噂のデンジャラスゾーンを無事に通過し、ほっと胸をなで下ろしながらアドバイス通りの針路で進んだ。

 

 のんびりと絶景を楽しむ余裕もなく、とりあえず逃げるように通過したが、ここは厳重に注意しなくてはならない場所である事は確かだ。 

 無事に通り過ぎただけで満足し、曇天の中、大橋を通過すると、右側(陸側)の海面に灯台が見えた。おそらくこれが昨日の話しの「大橋を越えた右側を避けて通れ」と言われていた場所なんだろう。

ここを避けたらそのまま一旦沖に向かい、アドバイスのまま、前に見える岬に近づかないようにしながら進んだ。

 ここを過ぎた後、どこか注意する点はありますか?と昨夜聞いた時、「なんもない」とさらっと言われたので、もう心配する事はないだろう。

 今回最も難関(だと思う)である角島を抜けて、もう大丈夫だと確信し、セイルを揚げ一気にマリーナ萩へと艇を進めた。

日和待ちがあったものの、予定通りマリーナ萩に到着。

 角島を過ぎるとあとはゴールを目指すだけだ。

さすがに毎日のように日の出から日の入りまでガンガン走り続けると、ゴール直前にはやはり疲れが出てくる。

 思考力、体力の低下を認識しながら、注意を怠る事なく進んで行くとマリーナ萩が見えてきた。

 想像していたよりも小さな島が多く、結構洗岩が見られるが、近づかなければ何ら問題はない。

 きっと桜の季節や紅葉の時期は絶景なんだろうなぁと思いながらマリーナに着桟。とても愛想の良いハーバ−マスターが出迎えてくれた。

ヨットの数は多くなく、どちらかというとモーターボート中心のマリーナだが、アットホームな雰囲気と観光地の中にあるマリーナといった感じがリゾート感を演出している。オーナー様同乗でしばらく艇の説明を兼ねたセイリングを行い、車で新山口まで送って頂き、帰路に着いた。

 

〜後記〜 「出さない勇気」も海洋レジャーには必要。

 毎回の回航で何かしらの怖い体験やヒヤッとする出来事を経験する。最初にロングの回航を引き受けた時、一人で35ft艇を回航しましたが、その時に、時化や落雷に襲われ、足をガクガクさせながら近くの港に逃げ込んだり、命からがら舫をとって以来、回航、特にロングには絶対2人かそれ以上で行こうと決めています。

 原則としてプレジャーボート、ヨットの世界は「自己責任で出港、帰港する」事が教本に明言されており、トラブルに対処できる知識も持たなくてはならない。

 何事にも「絶対」はあり得ません。最悪を想定して無理をしないという「勇気」も海洋レジャーには必要です。

 いざという時には根性で切り抜ける事も必要ですが、そうならないために、事前に情報をしっかり収集し、抜かりなく安全に楽しむ事が、長く海洋レジャーを、ヨットを楽しむ秘訣なんじゃないかと、痛切に感じた回航でした。

 この回航記がより多くのヨットマンの皆様の情報の足しになることを願いながら書いております。もし当該エリアへのクルージングなどに行かれる方で、当サイトの内容に加えてさらに詳しい情報が知りたい場合は、お気軽にご連絡を頂ければと思います。分かる範囲でご説明致します。

 

 

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